63殺人事件

「お父さん、あっちで少し横になれば」

食事が終わると美恵子は、剛をキッチンから追い出した。

美恵子はそうとう狂気の『剛ネタ』がたまっているようだ。それはカラダに悪いので、すぐに吐き出した方が良さそうだ。

キッチンの扉を閉めたとたん、美恵子の口からは大量の老廃物があふれ出した。

「この前ね、初めて胸ぐら掴まれそうになったのよ」

マジか。とうとう暴力か。そこまできたか。

最悪な事態。現状は胸ぐらぐらいだが、これが進行したらどうなるんだろう。

「やだ、お母さん。気をつけてよ。そのうち殴られたり首絞められたりしそーじゃん。めっちゃ怖いんですけど」

「いや、その前にお母さんが包丁でやっちゃいそうよ」

「分かるうー」

「でもダメだよ。お願い。それだけはやめて。がまんして」

最近介護疲れで年老いたじいさんが、認知症のばあさんを殺害するとかいう事件増えてるからね。介護するだけでもそうとう大変なのに、介護される側が暴言吐いたりする。やりきれないよね。うちもそのタイプだな。最悪。

それとかもう疲れて疲れて、こいつを殺して自分も死ぬって決めて、死ねないやつ。切ないなあ。

「で、その後どうしたの?」

「逃げたわよ。逃げるしかないでしょ。このテーブルのまわりグルグル回ったわよ」

コントかよ。

「お父さん、足もたついてるからぜんぜん追いつけないからね。ホントちょっと押したら勝っちゃうけど、それはまずいでしょ」

うん、プライドもあるし、それこそ打ちどころによっては殺人事件になりかねないもんね。

昨年は剛の認知症により、ふさぎこんだ美恵子はうつ病になりかけた。一年たってとても頼もしくなった美恵子に少しだけ安心した。

まだ余談は許されぬが・・・。

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